この章で学ぶこと

  • 事業売却を「出口」として活用した実例
  • 事業承継から第二創業へつなげた信頼構築の過程
  • "辞める"勇気と判断基準 — 20年の経験から

1.「事業売却」という選択肢

「自分で畳む(廃業する)」以外の選択肢を、事業が順調なうちから持っておくことが重要です。

・飲食店経営が軌道に乗り、新規事業(移動販売)にも着手していた矢先、親の病気という予期せぬ事態が発生しました。

・私は、苦労して育てた飲食店事業を「ビジネスモデルごと第三者に事業売却(譲渡)する」という決断をしました。

・これは「失敗」ではなく、家族や従業員を守り、次の事業(事業承継)に進むための、戦略的な「出口」でした。

2.「事業承継」と「第二創業」のリアル

私のキャリアの後半は、まさにこの「事業承継」と「第二創業」です。

・私が承継したのは親の事業(塗装業)でしたが、将来性を鑑み、異業種である「自動車部品加工業」へと事業転換(第二創業)しました。

・なぜそれが可能だったのか? それは、ある共通の仕入れ業者さんから、後の親会社となる企業様が、私が事業を承継し、常に取引先様の要求に答え続け、高品質の加工をしていたことを聞きつけたことから始まりました。「こういう加工ができないか」という依頼に対し、先方の要求品質水準・単価・納期などを徹底して遵守し続けた結果、信頼関係が構築され、このような事業転換が可能となったのです。

・ゼロからの起業とは違う、既存のリソース(信用、技術)を活かした戦い方です。

3. 潔い「廃業」の判断基準

「続けること」が正義とは限りません。時には「辞める」勇気が、あなたを次へと進ませます。

・もしあの時、飲食店を売却せず、第二創業を選んでいなかったら…?

・あなたは、事業の「撤退ライン」を決めていますか?(例:赤字が◯ヶ月続いたら、運転資金が◯円になったら、自分のメンタルが限界だと感じたら)

・「廃業」と「事業転換」の分水嶺はどこにあるのか。このプランを通して、あなたなりの基準を考えてみてください。

・停滞期または衰退期に借り入れを増やして延命することは、絶対におすすめしません。私もこの罠に陥りそうになりましたが、今まで述べてきた通り、個人事業に「絶対」という保証はありません。ただし、高い志を持って起業したからには、簡単に終われないという気持ちも痛いほど分かります。過去の偉人たちが残した「諦めなければ成功する」という名言も、あくまで「結果論」であり、残念ながら全員にあてはまるものではありません。借金で再起不能になるよりは、資金的に少しでも余裕があるうちに「辞める」という決断をすることも、事業主としての賢明な判断だと私は思います。

・私が約15年の自動車部品加工業の廃業を決断した背景には、大きく二つの要因があります。一つは、新型コロナウイルスの影響による受注の激減と、その終息が見通せなかったという外部環境の劇的な変化です。もう一つは、そのような事態に備えて、あらかじめ事業を通じてまとまった資金を確保していたこと、さらには廃業時に支給される小規模企業共済にも加入し、毎月掛け金を積み立てていたことによる「資金的な安心感」です。これらの備えがあったからこそ、廃業という決断が可能になりました。